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虫屋さんがわからない

元記事はこちら:野外手帳「ヒバカリかわいや」です。

【再掲】ヒバカリについて書いた「野外手帳」

山道でヒバカリ(ヘビです)を見つけました。それについて野外手帳「ヒバカリかわいや」に書いたのですが、その中で、業者による大量販売について触れました。以下、その部分について再掲します。

爬虫類好き・ヘビ好きの人口は限られているので、個人的にヒバカリを捕まえてきて飼うことはあまり問題にはならないのかもしれません。でも、業者が野生の個体を大量に採取して販売することは影響が大きいと思います。ヒバカリは普段それほど目にはつかないものの、市街地にも生息しているという記述をみつけました。それでも業者の大量採取が続けば、個体数を減らしてしまうことは避けられないでしょう。それはやめてもらいたいと思うのです。

同じようなことは熱帯魚業界についても言えます。繁殖が難しい種類や「ワイルド個体」の需要のために、業者による採集が行われています。なじみ深いところでは(熱帯魚ではないですが)藻の除去に活躍するヤマトヌマエビがそうです。

そのことを知ってから、ただでさえ長生きさせられなかったヤマトヌマエビを買うこと・飼うことはやめました。ヤマトヌマエビを購入することは、業者の大量採取につながるからです。もっとも最近は養殖も増えているようなのですが。熱帯魚店でワイルド個体を選ばないことは、野の生き物を守るために大事なことだと思っています。

ヘビを個人的に捕まえてきて飼うことはあまり問題がないと先ほど書きましたが、昆虫の世界では、個人の採集圧が、種の存続や地域の生息数を大きく減らす事態も起こっています。

子どものうちは大いに虫を捕まえて飼うべし!と思うのですが(そんなもので減りはしないでしょうから)、大人になってからは、やはり、基本的に「野の生き物は野におけ」と思っているのです。

2011年10月なかごろ記

虫屋さんからの反論が来て、とりあえず反省した

この記事をtwitterで流したら、
どこで、どういう風に「事態」が起きているのか、教えてほしいもんです。
という反論が来ました。引用元

さらに、
具体的事例を教えてください。例えば、どこで採集圧のみで昆虫が絶滅したのでしょう?
と反論が続きました。引用元

採集圧のみで昆虫が絶滅したなんて、さすがにそんなことは書いていませんし、そんな検証ができるわけもありません。ただ、こう書いていただくのはありがたいことで、自分の言葉足らず・表現力不足を痛感しました。

この方は「個人の採集圧が、種の存続や地域の生息数を大きく減らす事態」に反応されたようです。
自分の書いた文とこの方の文とをよく読んで、
昆虫の世界では、採集圧がすでに環境の悪化や変化などで大きく数を減らした種類に追い打ちをかける事態」という意味で書きたかったのだと分かりました。

誤解を招く表現でした。お詫びいたします。大体、日本語としても変でした。^^; 「野外手帳」は、後者の表現に改めました。

地域個体群がほぼ危機にさらされている場所で、捕虫網を持った人間がいたり、その幼虫を食草ごと採集したりという話は、一般紙で報道されています。今年に入ってから自分が目にとめてストックしたチョウの例だけで、

2011年5月9日信濃毎日
----以下引用
国内では九州・阿蘇山系と長野県内だけに分布する絶滅危惧種のチョウ「オオルリシジミ」の生息地が飯山市で新たに見つかったと、同市が8日、地元説明会で明らかにした。現在も生息することが確認されたのは県内で3カ所目。(中略)乱獲から守るため県や市、研究者らは公表を控えてきた。(中略)09年から10年にかけて不審な車両や人物も目撃された。昨シーズンは産卵可能な成熟チョウが確認できなかったといい、田下理事は「捕られている可能性がある」としている。

2011年7月8日信濃毎日
----以下引用
環境省と県が絶滅危惧種に指定したチョウ「オオルリシジミ」が生息する安曇野市内の国有地で6月、男性2人がオオルリシジミの幼虫が食べる植物クララを切り取っているところを近くの男性(35)が見つけ、7日までに国や県、安曇野署に通報した。(中略)。国有地の草むらにいたところを呼び止め、「オオルリシジミを捕っているのか」と聞いたところ、2人は「(希少種ではない)ルリシジミだ」と答えたという。男性が「警察に通報する」と言うと、2人は「それは勘弁してほしい」と言い、尾張小牧ナンバーの車で走り去った。 男性は走り去る前に2人の了解を得て車の荷室を撮影。クララとみられる草や虫かごなどが写っていた。県自然保護課は「状況からしてオオルリシジミの違法採取としか考えられない」と話している。(中略)同会議代表の那須野雅好さん(51)は「これまでも何度か被害に遭ってきた。大変残念だ」とし、国有地管理の担当者は「どういう対応が可能なのか検討したい」と話している。

といったところです。

反論を下さった方は、環境の悪化や変化が昆虫を減らしているのであって、採集者ばかりが悪者にされるのは納得いかないというお考えなのだと思います。それはその通りだと思います。昆虫採集だけで個体数が減ってしまうようなことはないでしょう。

わたしは昆虫採集=悪と主張したいのではありませんし、もともとそうは思ってもいません。
問題だと思うのは、地域個体群を含めて、希少種であっても、採集をやめない人たちがいることです。

こんな大げさな看板を立てなければならないのは、そういう現実があるからではないのでしょうか。

鳥屋の世界では、野鳥の生息、特に希少な夏鳥の繁殖に悪い影響を与えても平気な一部の観察者・撮影者がいることは事実で、そういう人たちへの批判は続けていかなければいけないですし、また、そうした批判に取り組んでいる方はたくさんいると認識しています。

今回反論を受け、一番考えてしまったのはここです。果たして虫屋さんの中に、危機にさらされている種や地域個体群を採集する人たちへの批判はあるのでしょうか。

採集圧などない!というけれど

反論者のツイートはこう続きます。(引用元

ミヤマシロチョウが風前の灯となったのは、別荘地開発で、トゲのある見栄えの悪いヒロハノヘビノボラズを伐採したことが要因。採集圧などではない。オオルリシジミにしても牧草地を放置したから、クララが激減しただけ。

採集圧がこれらのチョウの数を減らしたわけではないでしょう。異論ないです。

ただ、どうも違和感が残りました。自分たちが採りたいという採集側の論理だけで、種を守ろうという視点が感じられないことに。

繰り返しますが、風前の灯火であるミヤマシロチョウでも採ろうとする人がいる。1996年発行の「信州の蝶」(栗田貞多夫著)では、長野県内で20数カ所のオオルリシジミの生息場所が記録されているのに、現在は3カ所しかない。そこに入り込んで食草ごとごっそり持って帰る人がいる。

地域での種の存続が危ぶまれている場合は、悪いのは環境破壊であっても、採集を控えて個体数の存続を助けるのは当然だと思うのです。

信濃毎日新聞から「希少種は今」(増田今雄著)という本が出ています。この本のチョウのページに、こんな記述が出てきます。

----以下引用
クモマツマキチョウ…こうした環境の変化に加え、違法採取もチョウを脅かす。

オオイチモンジ…幼虫の食樹が集中し狙われやすいポイントは数カ所。見て回っていた一人が声を上げた。「やられているぞ」。道沿いの木に、枝ごと切られたと見られる跡が複数あった。

ミヤマモンキチョウ…シーズンの監視体制に違いがあり、手薄な方が狙われやすい。「採取者もその辺の事情は熟知している」と関係者。

オオルリシジミ…開発や農地整備、農薬散布などで減少。そこに乱獲が追い打ちをかけた。専門誌が(中略)生息地情報を掲載。県外ナンバーの車が押し寄せ、マニア同士のけんかもあったという。

タカネヒカゲ…捕獲は原則禁止だが、違法採集もあとをたたない。浦野さんらが目を光らせ、厳重注意や始末書提出に至った例もある。

ヒメヒカゲ…草地が消滅し、2次的に消毒や植生の変化が追い打ちをかけ、さらに、産地により紋や色、形などの違いがあり、マニアによる過度の採集圧がとどめをさした。

この方も、その周辺も、これらは間違いだとおっしゃいます。

採集圧とか言ってる奴はハナから生き物を舐め腐ってんだよ(引用元

知らない人がちょっとその辺で採集圧とかいう単語を聞いただけとしか思えません。相手は人間が敵うはずのない自然なのに、真実を知らないで、とやかくいうことなんてちょっとなぁ、と思ってしまいます。(引用元

全国的に殺戮、撲滅活動が盛んなゴキブリが絶滅しないのはなぜか。を考えればわかると思う… (引用元

採り尽くせるなら取り尽くしてみたいです。一頭採るのもかなわないというのに。ある意味夢だ。(引用元

採集圧など、無い(僕の公式見解)。 RT @anhebonia: ナゲナワグモくらいに数が少ないと採集圧はてきめんだね。ま、蜘蛛なんで採集する人は少ないから問題にならないけど。引用元

採集によってチョウが減ったわけではないのだし、これからも採集で減るわけではないのだから、希少なチョウを採っても問題ないと言いたげに感じるのは、わたしだけでしょうか。そんなことはないと思いたいのですが。

数が減った生きもの(昆虫)を採るのをやめたら…?という考えが、こんなに受け入れられないものだとは思いませんでした。

素人にはわからない?

自戒的な意味を込めて、おまけを一つ。

あ-、地域個体群ね、なるへろ。カタクリとか(素人でスマソ) でも昆虫って…昆虫って…(引用元

この発言は、「地域個体群が減る・絶滅するという見方は、植物では妥当かもしれないけど、昆虫には当てはまらないよ」という意味だと思いました。
こう突っ込んでくるということは、(植物は素人だけど)昆虫か地域個体群について詳しい方だろうと思いました。

わたしは前述したように、例えばオオルリシジミなど、地域個体群が危機に瀕している蝶がいるという認識だったので、次のように質問してみました。

昆虫でも地域個体群が絶滅しかかっている例は、長野のチョウではあると認識していました。でも昆虫って…昆虫って…というのは、この認識に誤りがあるということだと思うので、教えて下さい。(わたしの発言

返ってきたのは

えーと素人なので(汗)ただ、昆虫って、特に蝶などはタマゴを生み付ける植物の有無に左右されるんではないかと。遺伝子レベルで調べれば消滅していても、適した植物や生息環境があれば、またどっかから飛んできて増えるんじゃないかと思っている次第です。(引用元

という答えでした。

昆虫に地域個体群なんて見方はそぐわないというニュアンスの発言をする方が、まさかそっちも素人だったとは…^^。研究者か何かだろうと勝手に思い込んだわたしがいけないのですが。
それはともかく、でも、わたしも素人です。この方のその後の言葉を借りれば、大学で生物を専攻したわけでもなく、資格も有してはいません。

今回の昆虫の採集圧問題について、わたしは無知で素人ですから、虫屋さんからすれば、ピント外れのことを言っているように見えるのかもしれないと、このやりとりを通して思いました。

この方への期待値に対して、「憶測と希望的観測」だけの返信しかもらえず、勝手にがっくりきたのですが、虫屋さんからすれば、素人が「憶測と悲観的観測」だけを書き散らしているように見えて、いらいらするのでしょう。

ただ、どうにも今回議論した虫屋さんの考え方・価値観がわかりませんでした。これらの虫屋さんが、一般的な虫屋さんかどうかもわかりません。種・地域個体群の保全を考えている虫屋さんもいるのだと信じたいです。

2011年10月なかごろ記

引用元の発言者から発言の訂正があり、当記事への訂正要請がありましたので、該当部分を訂正し、あわせて一部表現を削除しました。またタイトルも変更しました。

2011年10月おわり記

続編をアップしました!

「虫屋さんのいろいろ」です。採集圧はあるのか?が主な内容です。

2011年10月おわり記

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