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諏訪湖のカワアイサ問題を見に行く(野外手帳の記事を加筆しました)

所用で松本に行ったついでに、諏訪湖まで足を伸ばしました。

カワアイサがたくさんいました!

ちなみにこの記事は1月初旬のもので、現在(1/22)はほぼ全面結氷しているらしいです。でもこの日もかなり寒くて、波打ち際では氷がしゃらしゃらなっていました。

コハクチョウ渡来地で各種カモを観察。カンムリカイツブリとミコアイサが個人的には嬉しかったです。他にはオナガガモ、キンクロハジロ、ヒドリガモ、カルガモ、オオバンなど。ユリカモメも何羽か飛んでいました。こんな内陸までやってくるのですね。

やや遠くには、カワアイサの群れが浮かんでいました。噂には聞いていましたが、かなりの数です。そして、諏訪湖では近年、このカワアイサがワカサギを食べてしまうと問題になっています。

カワアイサ群れ

-----以下引用(毎日jp 2011/01/22)
冬鳥で魚食性カモ類のカワアイサは、近年になって諏訪湖に大群が飛来。ワカサギへの食害が大きな問題になっている。県などによる毎年1月のカモ類調査では、90年代は10~300羽程度だった飛来数が、05年に1000羽を超え、08年には2333羽を記録。今年1月14日の調査では1498羽だったが、堀田昌伸・県環境保全研究所主任研究員によると、湖が結氷する前の同5日の調査では約2200羽。同研究員は「越冬のピーク時には、今も2000羽前後が飛来している」と話す。環境省によると、10年のカワアイサの飛来数は全国で約6300羽。その約3分の1が諏訪湖に集中し、同湖の増減が全国の増減にそのままつながる異例の状況になっている。(中略)諏訪湖漁協は「群れで大量のワカサギを食べている」と懸念。漁船で追ったり、船に積んだ爆音機で驚かせるなどして追い払おうと懸命だ。このため、湖で越冬するコハクチョウなど他の鳥にも影響が及んでいる。
-----引用ここまで

この日も、カワアイサを追うような動きをしている船がありましたが、カワアイサはツーと静かに移動しただけ。特に驚いた様子や飛び立つ姿はありませんでした。大勢に影響はないように見えました。下の写真でカワアイサが同じ方向を向いているのは、船を避けて一斉に移動しているからです。おかげで、岸辺近くまでやってきてくれました。

カワアイサ群れ

ほんとにカワアイサが悪いのか?

それにしても全国の飛来数の1/3とは…!確かに、魚食性の鳥がこれだけいればワカサギの被害は心配でしょう。
ワカサギの漁獲量は昭和50年(1980)代の1/10にまで落ち込んでいるそうです。ワカサギ漁を営む方にとっては死活問題。全国のワカサギのほとんどが諏訪湖で採卵されたものらしいし、影響も大きそうです。あちこち検索すると「憎きカワアイサ」的な表現も目について、鳥好きとしては複雑です。

ただ、ワカサギの減少の主な原因の一つには、ブラックバスやブルーギルの存在もあげられています。全国各地で問題になっているこのルアー対象魚の放流は、諏訪湖も無縁ではありません。

-----以下オオクチバスについて引用(長野県水産試験場
諏訪湖では?
昭和53年(1978年)にはじめて確認されていますが、その後は年に数尾が捕まえられる程度で定着の兆候は見られませんでした。(略)平成9年(1997年)頃から徐々に増え始め、11年(1999年)7月に4~5cmの稚魚が確認されるなど、定着の兆候が見られるようになり、現在ではふ化後間もない仔魚も捕獲されています。
何を食べている?
(略)諏訪湖ではエビやとんこ(ヨシノボリなど)、もろ(モツゴやモロコ)のように水草帯にすんでいる種類が主に食べられています。ワカサギもこのごろは水草帯の近くで餌を獲ることが多いことから比較的多く捕食されています。

-----引用ここまで

諏訪湖では、リールを使った釣りは禁止されていて、バサーの放流を警戒する態勢になっています(放流も漁協が禁止し、駆除も行っているようです)。ワカサギを守るために、こうした対策は必要でしょう。
また、ブラックバスは、小さなサイズの魚しか捕食できないカイツブリを脅かします。生態系を保全するためにも、ブラックバスの駆除には賛成です。

カワアイサはワカサギをどれだけ食べているの?

カワアイサの被害について、諏訪湖漁業協同組合はサイトで次のように述べています。

-----以下引用
下段の写真は、わかさぎの大敵、魚食性の鳥「カワアイサ」が食べ過ぎて飛べなくなり、吐き出した108匹のワカサギです。 諏訪湖は銃猟禁止区域のため、狩猟が出来ません。よって魚食性のカワアイサの天国となり、毎年約2000~3000羽が飛来し、手当たり次第捕食しています。(中略)なお、約400gの魚を食べると飛べないことが知られています。今回の場合、ワカサギ゙一匹1gですので吐き出したワカサギは、108g相当となり、残り約200~300gを胃袋に入れたまま飛び去ったものと推定されます。現在、1500~2000羽がいるため、一度の狩で最大約6000㎏(2000羽×300g)が捕食されている計算になります。追払いを行なわないと一ヶ月で、約18t捕食されると推定しています。事実、5年前はこれ程イタズラをするとは知らず、何もしなかったため溯上ワカサギがゼロに近い年があり、採卵不振で大打撃を受けました。
-----引用ここまで

それに対し、長野県公式ホームページ信州フレッシュ目安箱では

-----以下引用
(前略)公共地で鳥獣用爆音器を使用するなど有り得ない行為です。諏訪湖は国民皆のもので、特定の利益団体(漁協等)の物ではありません。そもそも県は渡り鳥が一日にワカサギをどれだけ捕食するのか判って許可しているのでしょうか、釣り人は多いときには1000匹くらいは釣り上げます。ワカサギは一時期よりも非常に増えていますし、渡り鳥を問題にするよりも県が実施する堆積汚泥の掘削工事の方が数百倍もワカサギに影響するはずです。とにかく近隣住民は騒音被害で大変迷惑していますので、直ちに止めさせてください。(後略)
-----引用ここまで

という意見に、県の回答は

-----以下引用
(前略) 諏訪湖に飛来するカワアイサは、近年増加し、平成20年には2,000羽以上確認されています。それと時期を同じくしてワカサギの採卵量が減少したことから原因究明の調査を行いました。カワアイサは捕獲される際、胃の内容物を吐き出す性質があるため、具体的な被害量や被害額は把握できておりませんが、ワカサギを捕食していることが確認されました。近年の飛来状況等とあわせまして、カワアイサによるワカサギの捕食が採卵量減少の大きな要因の一つであると考えております。(後略)
-----引用ここまで

となっています。カワアイサの被害は認めつつ、詳しいことは分からないという見解です。大体、漁協の「400g食べると飛べない」という話の根拠はなんでしょね?

JDreamIIに登録されていた長野県水産試験場の沢本良宏さんの「諏訪湖に飛来したカワアイサの食性調査」によると

-----以下引用
長野県水産試験場研究報告諏訪湖での50年以上前の調査では,ワカサギを捕食しないとされた魚食性鳥類カワアイサの食性を調査し,水産資源保護の基礎資料を得ることを目的とした。カワアイサの捕獲は船上からのなげ網や魚類捕獲用投網,徒手によった。食性調査は,胃の内容物を強制的に吐出させ,ホルマリンで固定して組成や重量を調べた。調査した8羽のうち,空胃は2羽,ワカサギ捕食は3羽,ニゴイ捕食は3羽であった。1羽当たりのワカサギ捕食量は14-66尾であった。1月以降はワカサギが接岸するためワカサギの捕食頻度が下がり,ニゴイ捕食が多くなった。
-----引用ここまで

とあり、漁協が挙げた例とはかなり異なる結果です。「カワアイサ憎し」の思いが、被害を実際以上に見積もらせている可能性があるってことです。被害がないとは言いませんが、その実際については推定の手前の「憶測」レベルですね。

漁獲減は複合要因

諏訪の矢島義恭さんが作成した諏訪湖の漁獲高の推移グラフ(←リンク先)をご覧下さい。「諏訪地方統計要覧」から作成されたグラフのようです。

カワアイサが増えたここ数年のデータがないのが残念ですが、このグラフを見ると、ワカサギの漁獲高の減少はカワアイサのせいだけではないことがよくわかります。

大きく減っているのは昭和50年(1980代後半)。カワアイサの飛来がまだ少ない頃です。
手元にある「長野県鳥類目録1991」を見ると、カワアイサが長野県内ではあまり見られない種類だということが伺えます。1981年には諏訪湖調査で15羽。1984年の同調査では7羽です。ちなみに、この時期、長野県内でカワウの記録もほとんどないようです。私にとってもカワウは県外に行かないと見られない鳥でした。

また、ブラックバスが定着してきた平成9~11年(1997~1999年)以降、ワカサギの漁獲が減っていることがグラフから読み取れます。その因果関係はともかくも。

こんな指摘があります。

-----以下引用(ブログ「子どもに釣った魚を殺せと強制するのはおかしい」より)
なぜ、漁獲高がここまで落ち込んだのか。水質が改善された今、漁協が注目するのは諏訪湖の底。“暴れ天竜”と呼ばれた天竜川の首根っこを押さえコントロールを容易にするため昭和63年に現在の形が完成した釜口水門(岡谷市)。漁協の分析では、現水門の稼働に伴い湖底付近で水の動きがなくなり、無酸素化。貝も虫も住まない“死の水底”と化しているという。
-----引用ここまで

昭和50年代の減少と釜口水門完成の時期が重なっているんですね。カワアイサのせいだけじゃないってことは、ほんとは漁協もわかっているみたいです。目に見えるものには責任を被せやすいってことでしょうか。
ちなみに、このブログのタイトルには賛成できないです。魚を釣ることは魚を殺すことですから。バサーっていろいろ理屈つけますけど、要は自分がバス釣りしたいだけなんですよね。

閑話休題。こんな指摘もあります。

-----以下引用(CiNiiに掲載されていた「諏訪湖の魚類群集 : 漁業統計からみた変遷」より)
(前略)1970年を境に諏訪湖の漁獲量が減少した理由の1つに湖畔の埋立,浚渫工事による沿岸域の水生植物帯の減少を挙げることができる。最近の諏訪湖の総漁獲量は1970年代のおよそ1/4程度であり,ワカサギの漁獲量もおよそ1/10に減少している。その主な原因としては,漁業者の高齢化や魚価の低廉化による漁獲意欲の減退も考えられる。しかしながら,最近の漁獲量の減少を漁業者の漁獲意欲減退だけでは説明できない状況もあり,諏訪湖の湖沼環境が変化したことの影響についても合わせて検討する必要がある。(後略)
-----引用ここまで(信州大学山地水環境教育研究センター研究報告に収録)

こうした環境や人間側の変化とが複合してワカサギの漁獲減につながっていると考えるのが妥当だと思います。

また、諏訪湖の浄化が進んだことでユスリカの数が減り(伊那に住んでいた1990年代、諏訪にはときどき行きましたが、無数のユスリカに遭遇して本当にすごいと思いました)、それを餌にしていたワカサギが減ったという話を聞いたことがあります。読んだことはないのですが、この本(「自然はそんなにヤワじゃない」)がそのことには詳しそう。

軋轢は必然

諏訪湖再生の取り組みは、ユスリカの減少や湖岸の公園化を含めて、人間にとって都合のよい景観を整えたという感じがします。生き物が棲みやすい環境へ改善していこうというのとは、少し方向性が違っていたのかなと思います。

もとをただせば、諏訪湖のワカサギは国内外来種。もともと諏訪湖にはいなかった魚です。漁業のため、そしてワカサギ釣り客を呼び込む観光用として、大正時代に人為的に移入されたものです。
先に書いたようにブラックバスの放流を規制することは当然で、駆除も必要だと考えますが、ワカサギはよくてブラックバスはだめというのは、同じ外来種なのですからちょっと勝手な話です。カワアイサも、ブラックバスを食べるのなら歓迎されたのにね。そう考えるとますます身勝手な話。

山野を開墾してできた畑に野菜や果樹を植えれば、その周辺の「自然」に生きる獣や鳥たちと農家との闘いは起こるべくして起こること。人間の営みと野生動物とは常にそういう関係にあるわけです。
諏訪湖漁協は、自然の地形である諏訪湖をそのまま利用し、ワカサギを放し、増やし、利益を上げてきました。ですから、自然に生きる野生動物との軋轢が起こることは必然です。

漁協の方にとって、カワアイサが「悪者」なのは理解できます。
追い払いを行うことも、鳥たちにとっては厳しいですし、そのことで漁獲が改善される保証もないとは思うのですが、人の生活がある以上仕方がないと思います。
爆音器は周辺住民から苦情があるようですが、リンゴ畑でも普通に使われていますので、個人的にはそんなに違和感がありません。

爆音器を使うことで、他の水鳥の越冬に影響が出ているという報道というか感覚の方には違和感を覚えます。カワアイサだけを追い払い、ハクチョウだけを残すなんて都合がよすぎます。
庭に餌台を設置し、メジロちゃん食べてほしいけど、ヒヨドリには食べてもらいたくないので、ヒヨドリが食べられないようにいろいろ工夫をした…というブログを読んだことがあるのですが、そんな歪んだ行為に通じる気持ち悪さを覚えます。

追い払いが漁協にとって費用的に時間的に大きな負担であるなら、行政から支援を行うのが最善の策のように思います。また釜口水門による影響調査も行われるべきです。漁協にとっては問題は結局「お金」なのですから…。

なぜ諏訪湖なのか?

疑問なのは、なぜこんなにカワアイサが急に増え、また諏訪湖に集まっているのかです。

図鑑の記述をいくつか当たっても、数羽から数十羽の群れで越冬することが本来の生態のようです。1000羽以上が集結することは異常なこと。
これは、諏訪湖が以前とは変わったのか、他の越冬地で異変が起こっているのか、どちらかでしょう。

前出の毎日新聞の記事では、冬の結氷の減少▽湖の浄化が進んで透明度が上昇▽95年以降の銃猟禁止措置を挙げています。
現在はほぼ全面結氷している諏訪湖。温暖化であまり氷が張らなくなったことは、カワアイサが諏訪湖で過ごしやすくなった要因として考えられます。そうすると、悪いのは地球温暖化ということになります?!諏訪湖の水質の浄化がカワアイサを増やしたとすればそれはちょっと皮肉なことです。

ただ、これらは本来大きな群れを作らないカワアイサが、これだけ集まることの説明にはなりません。また全国に飛来する1/3が諏訪湖に集まる理由としても弱いと思います。

人為的に増やされ、自然界にとっては異常とも言える数のワカサギがいる諏訪湖に、それを食べる鳥が集まってくる。これはある意味自然な営みだと言えます。
そして、他の越冬地では何らかの理由で餌の確保が難しくなってきている。もしかしてブラックバスなどの放流が関係しているのか。そう考えたくなってしまうのですが…。まあ、これこそ憶測の域を出ません。^^;

2011年1月記

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