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大座法師池のブラックバス駆除は生態系を守るためのものではない

※覚え書きに書いたことを加筆(2011年11月はじめ)
※追記(2011年11月なかごろ)

長野市街からループ橋、または七曲・バードラインを上り詰めて飯綱高原の一角に飛び出すと、大座法師池が姿を見せます。2011年の秋、この大座法師池の異様な光景に驚いた方も多いでしょう。水が抜かれてこんな状態になっているのです。
※下に出てくる大谷地以外の画像は2011年10月下旬に撮ったものです。

大座法師池水抜き

もう完全に底が露出している状態。かつてはたくさん見られたような記憶がある浮島は、今はもう浮島って感じではないですけど、それもこんな(↓)状態。また水が入っても再浮上は難しいような…。

大座法師池水抜き

通るたびに、何で水を抜いているのかなと思っていましたが、新聞報道で目的を知りました。

----以下引用(信毎web)オオクチバス駆除へ 長野市の大座法師池水抜き ワカサギ保護を
10月08日(土)
長野市の飯綱高原観光協会は、同市上ケ屋の大座法師池にすむ外来魚オオクチバス(通称ブラックバス)を駆除するため、池の水を抜いている。ワカサギの繁殖を妨げているとみられ、大規模な駆除をしてワカサギ釣りによる観光振興を目指す。(中略)同協会は昨年春、ワカサギ釣りを新たな観光資源に育てようと卵を放流したが、秋から冬にかけて全く釣れず、失敗。県水産試験場環境部(安曇野市)の小川滋・主任研究員は「オオクチバスに食べられている可能性がある」と指摘する。試験場は今年6、7月に捕獲を実施したが、あまり成果がなかったため、水抜きによる捕獲に踏み切った。(中略)捕獲方法は今後検討する。コイやフナはいったん別の場所に移し、年内に再び水を入れて戻す。来春に再度ワカサギの卵を放流する。オオクチバスは、外来生物法に基づき飼育や放流が原則禁止される特定外来生物に指定されている。観光協会の中井正明会長は「駆除を進め、ワカサギ釣りでにぎわう池を目指したい」としている。

----引用ここまで

基本的にブラックバスの駆除には賛成です。ここではバス釣りをしている人をよく見かけました。その方々にとっては都合が悪い話でしょうけど、もともと禁止されていたので仕方ないですね。

この日は大座法師池の水を抜かれた姿を撮っておこうと、用事のついでに立ち寄ったのですが、立てられた看板を読んで、??と思いました。

大座法師池ブラックバス駆除看板

「外来魚のブラックバスが異常な繁殖をしてしまい、大座法師池本来の生態系が崩れてしまった」とあります。これは変だなと思いました。

それは、ワカサギだって大座法師池にとっては立派な「外来魚」だからです。ワカサギの放流は、大座法師池本来の生態系を崩す行為のはず。

「バス釣りはやめてもらって、代わりにワカサギ釣りの池にします」とはっきり書いてしまうと、バサーから批判されると考えたのでしょうか。新聞で報道されているので、ここにそう書かない真意は分かりませんが、あまり誠実な感じはしません。

さらに言うと、「大座法師池本来の生態系」ってなんでしょうか。

大谷地湿原大座法師池というと、だいだらぼう伝説が長野市民的には有名で、大男の「だいだらぼう」が足を踏ん張ったときにできた足跡に水がたまって池になったという昔話を聞いたことがあります(参考URL)が、ここはもともと人工的に作られた農業用のため池です。
築造は古く、1674年の水利権に関する記録が残っているそうなので、今から約340年ほど前になるようです(参考URL)。

それまでは、すぐ隣にある大谷地湿原(写真左:2008年撮影)のような湿地だったと推測できます。

今でも大座法師池に流れ込む、確認できる唯一の水路(写真下:現在はとめられていますが)はそちらから流れてきています。
ため池築造以前、小さな池くらいはあったかもしれませんが、その頃の生態系などため池にしてからは失われているはず。

大座法師池流入水路

江戸時代以降の生態系といっても、人間が放した在来の魚くらいでしょう。どうも、観光協会の看板に謳われる「守るべき生態系」の姿がはっきりしません。ちなみに看板にある「鯉の救出作戦」のコイとは、岸から見かけることのあった「錦鯉」を指しているようです。錦鯉ももちろん、大座法師池にとっては「外来魚」。

ちなみに1989-1990年の調査(長野市飯綱高原自然環境基本調査委員会)では、コイ、モツゴ、ギンブナ、シマヨシノボリ(トウヨシノボリの誤認と思われる)、2003年の調査(長野県自然保護研究所)ではコイ、ギンブナ、オオクチバス、トウヨシノボリが確認されているそうです。
参照・引用元URL
----以下引用
今回の調査で新たにオオクチバスが確認される一方で、当時は大量に稚魚が確認されたモツゴは捕獲できなかった。また、他に生息する可能性のある魚類としては過去に移植されたワカサギがあげられるが,今回の調査では確認されなかった。
----引用ここまで

ということなので、モツゴを守るためのブラックバス駆除ならわかりますが、救出するのはコイだけのようで、やっぱり筋が通りません。

はっきり正直に堂々と、新聞記者に話したように、「ワカサギ釣りの池にしたいからブラックバスを駆除する!」と看板に書けばいいのに、生態系を守るとか、妙にかっこつけたように感じるから、こんなことを書きたくなってしまう始末なんです。

それにしても、これまで釣りを禁止していたのに、ワカサギが増えたら釣っていいことにするというのも、私にはよくわかりません。自分が釣りをしないのでわからないのかもしれません。なぜ釣りは禁止だったのかな。儲かるとか儲からないとかの話なんでしょうか。

2011年11月はじめ記

追記:バス駆除を実施した模様です

----以下引用(信毎web)オオクチバス530匹駆除 水を抜いた飯綱高原の大座法師池で
11月09日(水)
長野市の飯綱高原観光協会は8日、同市上ケ屋の大座法師池で、池に生息する外来魚オオクチバス(通称ブラックバス)の駆除作業をした。駆除のために8月下旬から水抜きを進めており、(中略)作業を実施。県水産試験場(安曇野市)の職員や観光協会員ら約40人が参加した。参加者たちは、ぬかるんだ池底に渡した板の上を歩き、池の中央部に移動。投網や地引き網を使ってオオクチバスやソウギョ、コイ、フナを引き上げた。コイ16匹とフナ63匹は容器で運び、輸送車の水槽へ。輸送車は長野市入山の芋井小学校第一分校(休校中)に移動し、同校のプールに一時的に放流。(中略)捕獲したオオクチバス530匹は同試験場が回収した。(中略)同協会は、ワカサギ釣りができる環境にしようと昨春に卵を放流したが、秋から冬にかけて全く釣れず、オオクチバスに食べられた可能性があると判断。(中略)同協会の飯島洋平専務理事は「駆除は大変な作業。バス釣りマニアにはオオクチバスを放流しないようにお願いしたい」と話していた。今後、放流しないよう呼び掛ける看板も周囲に立てる。

----引用ここまで

大座法師池への水路からはすでに水が流れ込み、湛水が始まっていました。まもなく池は元の姿に戻るでしょう。

オオクチバスは530匹ということで、その多さに驚かされました。干された池の写真を見てもらえば分かりますが、あのほとんど水たまりに近いような場所に、よくそれだけの魚がいたものだと、そっちにも驚きました。

ソウギョは、これまでの調査では確認されていない魚種ですが、これも日本の魚ではありません。中国原産の草食魚で、ブラックバスのように他の魚を食べてしまうことはないものの、大量の水草を食べてしまうため、ブラックバスとは違う意味で環境に影響を与える魚のようです(野尻湖ではソウギョの食害から水草を復元する取り組みが行われているそうです:参照)。

この記事では、その外来魚ソウギョの行方は書いてないのですが、おいしい魚みたいなので、食べてしまったのかな。

さて、新聞記事は前回と同じく、ワカサギ釣りの障害となっているブラックバスを駆除したと書いています。例の看板の「生態系を守るため」という意味合いは記事にはありません。

しかし、観光協会の専務理事さんの、「駆除は大変な作業。バス釣りマニアにはオオクチバスを…」というお話からは、「俺たちが生態系を苦労して守っているんだ」という、看板のニュアンスを再び感じてしまうのは、私のうがった感覚でしょうか。

人工のため池で持ち主も長野市なのですから、ワカサギ観光事業を計画するのは問題ないと思います(すぐ近くの「霊仙寺湖」という、これもため池ですが、ここではすでにワカサギ釣りが盛んですので、競合が心配なくらいです)。

そして、ブラックバス駆除は「正義」のためではなく、自分たちがその観光で利益を上げるためにやっていることです。そこはぜひ勘違いしないでほしいです。「生態系を守る」という言葉を、都合よく使わないでほしい、わたしが言いたいのはこのことだけです。

今後立てられるという「バス放流禁止」の看板が、どんな文言になるのか、ちょっと楽しみというか心配です。

2011年11月なかごろ記

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